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「あえて、すぐ専門を決めない」がちょうどいい! リベラルアーツカレッジという選択肢


近年、日本の高等教育でも時折耳にするようになった「リベラルアーツ」。アメリカには非常に古くからの歴史を持つ、“名門”と呼ばれる「リベラルアーツカレッジ」がたくさんあり、総合大学に引けを取らないほどアメリカの学生たちの憧れの存在となっています。日本でも国際系・グローバル系と言われる大学を中心にリベラルアーツ教育を取り入れる大学が増加してきており、学生主体できめ細かいフォローが充実しているリベラルアーツの考え方・メリットが徐々に浸透してきています。いまだ世界を席巻し続ける新型コロナウイルスの脅威が去った後、アメリカで学ぶことを目指す学生の中には、専門性を「徐々に」構築していくリベラルアーツカレッジが「肌にあう」と思える人が、たくさんいるはずです。今回は、アメリカのリベラルアーツカレッジについて、改めて取り上げます。

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「あえてすぐ専門を決めない」リベラルアーツカレッジという選択肢

リベラルアーツカレッジに共通する特徴

リベラルアーツカレッジ(Liberal Arts College)とは、“リベラルアーツ教育”による広い視野と豊富な教養・知識を身に付け、真のリーダーシップがとれる人材を養成することを目的とした4年制大学のこと。総合大学(University)と比べると規模が小さい大学が多く、学生参加型の授業が中心。自分の興味に合わせ、自然科学、人文・社会学、芸術など幅広い学問に、自由にチャレンジすることができるのが特徴です。

また、総合大学が学部(学士)・修士課程・博士課程のすべてのプログラムを提供し、とくに専門性の高い大学院レベルの研究に力を入れている大学が多いのに対し、リベラルアーツカレッジは幅広い知識や教養を身につけることに主眼が置かれ、「学部学生」への“人間教育”を重視している傾向があります。
現在、アメリカでリベラルアーツカレッジと呼ばれる大学は600校ほどありますが、そのほとんどが小規模な私立大学です。

リベラルアーツカレッジの主な特徴

◆少人数制:

学生総数は500~3000人程度の学校が多く(総合大学だと数千人~数万人に上るところもある)、原則として学部のみ(※)。1クラスあたりの人数は通常10~12人程度、最大でも30人程度に抑えられており、クラスはアットホームな雰囲気です。

※大学院を設置しているカレッジもあります。また、リベラルアーツカレッジの卒業生の多くが総合大学の大学院に進学し、修士号・博士号を取得しているというデータもあります。

◆きめ細かなフォロー:

小規模かつ少人数制教育を徹底により、教員一人当たりの学生数(ST比)が低いため、各学生のニーズに応じたきめ細かな指導が行き届いている傾向があります。また、学生一人ひとりに1対1でチューターや進路カウンセラーが付き、クラスの履修方法や専攻の選び方、将来の進路に至るまで親身になって相談に乗ってくれる学校もあります。

◆学びたいことを自由に学べる:

幅広い学問領域を学び、多様な知識や教養の獲得を目指すことをベースに、多分野にまたがる問題を解決する能力を高めることに注力されています。総合大学に比べると提供される専攻は限られることが多いですが、人文・社会・自然科学・芸術など様々な領域の核となる基礎的な分野を高いレベルで、バラエティ豊かに学ぶことができます。

◆活発な議論:

個人の意見を発表したり、考えて表現したりなどが求められる参加型の授業が中心。グループワークが重視され、ディスカッションやプレゼンテーションの授業も多いのが特徴です。少人数クラスのためディスカッション等にも参加しやすく、先生への質問もしやすい傾向があります。

◆コミュニティ:

多くの学校が全寮制をとっており、大半の学生が寮生活を行うことが基本。学生と教員の距離が近く、個別指導と合わせて学生一人ひとりを丁寧にサポートする体制が整えられています。学生間においても、共同生活を送る中で、密接な関係が築ける傾向があります。

◆学費は総合大学より安価:

世界的に見ても高額と言われるアメリカの大学の学費ですが、リベラルアーツカレッジの場合、一般に公立大学に比べると若干高額となるものの、私立の総合大学よりは若干安価であることが多いです。また、奨学金制度などの学費補助は公立大学よりも充実している傾向があります。

もっと知りたい! リベラルアーツ教育とは?

「リベラルアーツ」は日本語だと「教養」と訳されることが多いですが、もともとは中世ヨーロッパの大学で修得すべき学問分野として深く根付いていた「自由七科(じゆうしちか)」と呼ばれる基礎的な学問七領域が起源となっています。言語学系の文法・修辞学・弁証法(論理学)と、自然科学系の算術・幾何・天文・音楽の7科目になります。

このリベラルアーツを前提とした現代の「リベラルアーツ教育」は、細かな専門分野を定めずに、リーダー・知識人としての人格形成の基盤となる自然科学、人文学、芸術など様々な分野を学び、幅広い教養を身につけることを目指す教育となっています。

リベラルアーツカレッジでの学び方

リベラルアーツカレッジでは特定の職業に直結するような専門知識や実用的な技術より、将来さまざまな分野で活躍できるような高い教養を有するバランスの取れた人間の育成に重点が置かれています。これは、アメリカの一般的な私立総合大学が研究を重視し、最終的に深い専門性を追求していく方針であるのとは一線を画しています。

入学時に専攻を決める必要はありません。専攻を確定させるのは2年次の終わりごろとなるので、1年目・2年目は自分の好きな科目を履修できます。2年間で様々な分野を学び、探求しつつ、自分の興味を見極め、3年次までに専攻を決定しますが、その後も途中で自由に専攻を変えることが可能ですし、引き続き分離の壁なく授業を履修できるという柔軟性、多様性があるのも大きな魅力です。

また、まったく異なる2つの専攻(メジャー)を学ぶダブルメジャーや、2つの学位を取得できるダブルディグリーの制度を採用している学校もあります。
学生の自主性が重んじられ、「学生主体」の学び方や制度、学習環境がしっかり整えられているため、学びの可能性が広がっている一方で、同時に自ら学ぶ姿勢が非常に重要になってくるのが、リベラルアーツカレッジの学びの特長と言えるでしょう。

アメリカのリベラルアーツカレッジ 最近の傾向

リベラルアーツカレッジは、どちらかというと都会よりも郊外に広大なキャンパスを有しているケースが多いという特徴もあります。大自然に囲まれた、田舎の静かなキャンパスで寮生活を送ることになるため、落ち着いて勉強に集中するには非常に適した環境にあると言えます。教員・スタッフを含め学校全体の絆が強く、授業だけでなく、その学校独自の行事やイベント、課外活動、ボランティア活動などが存在しているケースも多いようです。

基本的には大学院は併設されておらず、専門的な研究は活発ではないが多いのですが、最近では最新の研究設備を備える大学も出てきています。

また、全米にはリベラルアーツカレッジ同士が自発的な連携組織を形成している、「リベラルアーツコンソーシアム」もいくつも存在しています。このコンソーシアムでは、メンバー大学間で授業や課外活動、食堂や図書館等の施設といったリソースなどを共有して、学生に対する教育や個々の大学の運営を充実・強化するべく協力体制を構築しており、単位の互換、教員・学生の交流、施設・設備の共同利用などを推進しています。コンソーシアムという名称ではありませんが、似たような制度を設定している大学群もあります。リベラルアーツカレッジは小さい大学ゆえに学べるコースの幅が狭く、とれる授業も少ない…というマイナスイメージを持つ方もいるかもしれませんが、コンソーシアムに参加しているカレッジでは、大学の垣根を超えて授業をとれるなど自由度の高いコース選択が可能である場合が多く、意欲があれば学びをどんどん広げていける機会が提供されています。

【参考記事】リベラルアーツカレッジのコンソーシアムが魅力的!

リベラルアーツカレッジの中にも個性が!

アメリカのリベラルアーツカレッジは、それぞれに個性豊かで、特色ある大学が揃っています。大手デジタルメディアであるUS News & World Report (US News)が毎年発表している全米大学ランキング“Best Colleges”のリベラルアーツカレッジ部門でも、上位にランクされるような有名校の中から3校をピックアップしてご紹介します。

アマースト大学(Amherst College)

1821年に設立された私立のカレッジ。マサチューセッツ州アマーストの自然豊かな環境に1000エーカー(約4平方km)の広大な敷地を持つキャンパスを構え、さらに500エーカーの野生生物保護区を有しています。学生数はおよそ1800人。新入生はキャンパス内の7つの寮のどれかに住む必要があり、2年次以降も含めた全学生の98%がキャンパス内に居住しています。 カレッジは40の専攻で学士号を提供しています。最も人気のある専攻は「数学(一般)」、次いで「計量経済学と定量的経済学」、「研究および実験心理学」となっています。学生と教員の比率は7:1であり、およそ7割のクラスが20人未満で構成されています。ファイブカレッジコンソーシアムのメンバーでもあり、他の4大学(スミスカレッジ、ハンプシャーカレッジなど)のコースを受講することもできます。
スポーツクラブなどを含め100以上の学生団体がありますが、「歌う大学」として知られ、アカペラグループがたくさんあることでも有名です。
カレッジはセメスター制を採用しており、年間の授業料(施設費用等を含む)は60,890ドル(2020-2021年)です。

ポモナカレッジ(Pomona College)

カリフォルニア州クレアモントにある、1887年に設立された私立のカレッジ。キャンパスはロサンゼルスのダウンタウンの東の郊外、サンガブリエル山脈のふもと近くに位置しています。学生数はおよそ1700人で、学生の97%以上が14の寮に分かれて住んでいます。
カレッジには音楽、数学、英語、環境分析、メディア研究、国際関係など48の専攻があります。学生と教員の比率は8:1で、およそ7割のクラスが20人未満で構成されています。最も人気のある専攻は「社会科学」で、次いで「複合的/学際的研究」、「数学と統計」となっています。クレアモントカレッジコンソーシアムに属しているため、他の6つのカレッジ(マッケナカレッジやピッツァ―カレッジなど)でも授業を受けることができます。
200以上の学生団体が存在しており、「Mulfi」と呼ばれる秘密クラブが有名です。また、キャンパスのロケーション特性を生かした「スキービーチデー」というイベント(学生は午前中に地元のリゾートでスキーをし、午後はオレンジカウンティのビーチで過ごす)がよく知られています。
カレッジはセメスター制を採用しており、年間の授業料(施設費用等を含む)は54,774ドル(2020-2021年)です。

ウェズリアン大学(Wesleyan University)

コネチカット州ミドルタウンに都市型のキャンパスを持つ、1831年設立の私立大学。Universityでありながらリベラルアーツカレッジの名門校として扱われています。学部の学生数はおよそ3000人で、新入生を含めた全学年がほぼ全寮制となっており、学生の99%がキャンパス内に居住しています。
学生と教員の比率は8:1で、75%を超えるクラスが20人未満の学生で構成されています。最も人気のある専攻「社会科学」で、次いで「心理学」、「地域、民族、文化、ジェンダーおよびグループ研究」、「視覚芸術と舞台芸術」となっています。 また、いくつかのアカペラグループを含む約200の学生組織があります。
大学はセメスター制を採用しており、年間の授業料(施設費用等を含む)は59,386ドル(2020-2021年)です。

なお、同大学は大学院を備えており、リベラルアーツの修士号を取得できるプログラムのほかに、文学や理学の修士号(M.A./M.Sc.)、哲学の博士号を取得できるプログラムなどがあります。科学(Sciences)学士号・修士号を取得できる複合学位プログラム(Combined-degree programs)も提供されています。


 

 

納得のいく進路選択をするためには、まずは自分がやりたいこと、学びたい分野をとことん考え、しっかり見極めることが最も大切です。ただ、将来、「どんな自分になりたいか」「どんな分野でどういう生き方をしたいか」は決まっても、その夢の実現のためにはどの学問分野で頑張ればいいのか、ということまでは、高校生の時点では、はっきりとはわからないことも多くありません。いろんなことに興味があり、1つには絞り切れないことだってよくあることです。 アメリカのリベラルアーツカレッジであれば、初めからやりたいことを決めておく必要はなし。大学に入ってから、様々な分野の学問に触れ、自分の可能性を探ることができます。リベラルアーツカレッジは、「あえて、すぐに決めない」という選択肢をポジティブに選ぶことができる進路と言えるでしょう。

※この記事でご紹介している内容は2020年12月25日現在の情報に基づいています。

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