お国柄が出る? ユニークな学部・学科を持つ大学 ~アメリカ編2~
世界各国の大学・学部は、国や地域、都市によってそれぞれに特徴が異なり、日本の大学ではなかなか深く学べない内容の学問を提供していることも数多くあります。前回からスタートしたこのシリーズは、大学ランキングにとらわれず、自分が本当に興味・関心のある分野を大学選びの観点の1つとして持っていただくために、“国によって特徴的かつユニークな学部・学科をもつ大学”をご紹介していきます。今回は「アメリカ編」の後編。各地の風土・産業や文化に根付いた学部・学科をもつアメリカの大学5校をご紹介します。
ユニークな学部・学科をもつアメリカの大学(2) ~5校~
大学がキャンパスを構える土地に根付いた産業や、風土、環境、文化に影響をうけた特徴的でユニークな学部・学科をもつアメリカの大学を、さらに5校ピックアップしてお届けします。
ノートルダム大学(University of Notre Dame)
ビジュアルコミュニケーションデザイン(Visual Communication Design)
インディアナ州サウスベンドに広大な敷地を持つ、カトリック教会によって創設された私立大学。全米でも珍しいトップレベルのカトリック大学であり、アメリカンフットボールの名門校としても知られています。大学キャンパス自体が緑豊かな美しいキャンパス自体が観光名所となっていますが、さらに敷地内には美しいカトリック教会や「聖母ルルドの洞窟」と言われるスポットがあり、多くの観光客が訪れます。また、サウスベンドには様々な芸術作品やパフォーミングアート、歴史的遺産を楽しめる施設がいくつもあり、芸術が身近な環境と言えるでしょう。
学部在籍者は約8,600人で、高い評価を受ける建築やビジネス、科学、工学、芸術文化の5つのカレッジに分かれています。同大学で最古かつ最大の学部である芸術文学部(College of Arts and Letters)には、学部課程のプログラムを提供する「芸術」「美術史」「デザイン」という3つの学科があり、いずれの学科も学際的でユニークな学びが提供されています。
デザイン学科には150を超えるメジャー(専攻)・マイナー(専攻)がありますが、注目したいのが「ビジュアルコミュニケーションデザイン」のプログラム。以前はグラフィックデザインと呼ばれていたこのプログラムは、ビジュアルアートとテクノロジーを組み合わせてアイデアを伝える創造的なプロセスとなっており、パッケージング、スケールグラフィック、UX/UI、ソーシャルデザイン、データの視覚化、デザインの研究・プロセス・方法を探求するユーザー中心のデザイン分野で指導が行われています。学位としては、デザインのBFA(Bachelor of Fine Arts)、およびBA(Bachelor of Arts)、大学院レベルではMFA(Master of Fine Arts)が取得可能です。
ジョンズ・ホプキンス大学(Johns Hopkins University)
医用生体工学(biomedical engineering)
クェーカー教徒の実業家ジョンズ・ホプキンスの遺産をもとに、1876年に世界初の研究大学院大学としてメリーランド州ボルチモアに設立されました。それまで教養中心の学部教育を主としていたアメリカの大学教育の中で、研究を中心とした専門教育を行うことを目的とし、世界で初めて大学院教育で博士号を授与したと言われる名門の私立大学です。
当初は大学院大学として出発しましたが、現在では学部生が約6,000人在籍する総合大学となっています。4つのキャンパスに医学、看護学、公衆衛生学、教育学、国際学など9つの学部を有しており、そのうち5つが学部生・大学院生を対象としています。研究重視の伝統は今でも継承されており、とくに医学部の教育・研究水準の高さは全米のトップレベル、世界でも屈指と言われています。また、アメリカで初めて公衆衛生学の分野で大学院課程を設けたことでも知られており、U.S. Newsの格付けでもトップを保ち続けるほど高く評価されています。
非常に高いレベルの研究が展開されている医学部の中でも、大きな注目を集めている分野の1つが「医用生体工学」プログラムです。工学の知識を医学へ応用しようとする学問分野で、従来の工学分野と現代生物学のコアとなる知識を統合して、生体システムに関する問題の解決を目指します。医用生体工学では、生体システムを扱う際の特別な困難を予測し、解決策への幅広い可能なアプローチを行うため、エンジニアが工学的および生物学的の両方の観点から問題を分析できる必要があります。そのため学部プログラムは、工学部と医学部の両方に存在し、基礎科学、数学、工学、生命科学の分野を強力な基盤として徹底的に学びます。また、プログラムには将来の医用生体工学技術者が持つべきとされる「コア知識」のセットも必修とされており、分子および細胞生物学、線形システム、生物学的制御システム、モデリングとシミュレーション、生物学の熱力学原理、およびシステムレベルの生物学と生理学の工学分析のコースが含まれます。基盤となる知識や技術をしっかりと身につけた後、各学生は高度な高額コースとなる生物医学イメージングおよび計装、計算医学、ゲノミクスおよびシステム生物学、神経工学、再生および免疫工学の6つの重点分野のいずれかを選択します。
ニューヨーク州立大学デルハイ校(State University of New York at Delhi;SUNY College of Technology-Delhi)
ゴルフコースマネジメント(Golf and Sports Turf Management)
1913年に設立されたニューヨーク州立大学を構成する学校の1つで、ニューヨーク州デルハイのキャッツキル山地に位置する公立の工科系大学です。学部生は約3,000人で、ニューヨーク州全域で60を超えるキャンパス・40万人を超える学生を有する世界最大規模の大学群の中では比較的規模の小さな大学ではありますが、理工系を中心に準学士号・学士号が取得できる60以上のアカデミックプログラムが用意されています。開校以来、優れた実践教育を提供していることで知られ、学内外においてインターンシップや研究室の環境を通して実践的な学習・教育が展開されています。
専攻には、リベラルアーツ、ビジネス、建築学などから、ゴルフコースマネジメント、ホテル・レストランマネジメント、レクリエーション&スポーツ経営学、料理、獣医技術、看護学などのユニークかつ実践的な学習を重視したホスピタリティ系の分野もあり人気を博しています。広大なキャンパスには実習のための本格的設備を完備。ホテル・レストランマネージメント専攻のためのホテル実習棟や、獣医技術専攻のためのアメリカ有数の施設として知られる動物飼育場や植物園、研究棟など、40のユニークな学術施設が揃っています。また、アメリカ北東部でゴルフコースを持つ大学としても有名で、キャンパス近くにプロショップやレストランを併設する18ホールの本格的ゴルフコースが設置されています。同コースを活用してゴルフコースの運営・管理の実地学習が行えるゴルフコースマネジメント専攻は、同大学の環境を生かした特徴的な専攻と言えるでしょう。ゴルフコースマネジメント(ゴルフとスポーツ芝の管理)プログラムは、ゴルフ場の芝の管理を行う科学とビジネスおよびコミュニケーション能力を組み合わせたアメリカ北東部で唯一のプログラムであり、全米でも有数と言われています。卒業生の就職率は100%で、強力なネットワークを持つ同窓生が世界中の権威あるゴルフコースやスポーツ施設の管理に携わっています。
コロンビア・カレッジ・シカゴ(Columbia College Chicago)
音響学(Acoustics)・音楽テクノロジー(Music Technology)
コロンビア・カレッジ・シカゴは、1890年に設立された私立の非営利の4年制大学。イリノイ州シカゴにキャンパスを構え、約7,000人の学部生に加え、大学院やオンラインでの学びも提供されています。学士レベルでは50ほど、大学院まであわせると100を超える学位プログラムがありますが、そのすべてがクリエイティブとメディアアート、リベラルアート、ビジネスを融合した基本カリキュラムを持っており、芸術・メディア分野に特化した大学となっています。
中でも音楽分野では非常に多くの専攻分野が用意されており、楽器やボーカルのパフォーマンスはもちろん、オーディオの設計・制作、映画サウンド、音楽ビジネス、ゲームサウンドデザイン、ライブ・パフォーミングアーツマネジメント、ヒップホップ研究など実に多岐にわたる音楽に関する学士号を取得することが可能です。デジタルミュージックラボ、ゲームラボ、メディアプロダクションセンターなど、ユニークで豊富な技術を備えた施設が、幅広い学位プログラムをサポートしています。
多くの音楽に関する学位プログラム(学士)の中でも注目は、全米でも数少ないBS(Bachelor of Science)の学位がとれる音響学と音楽テクノロジーの専攻。BSは、従来の音楽の学位(BA:Bachelor of Arts)よりも実質的なSTEM(科学、技術、工学、数学)のコースワークを必要とします。音響学・音楽テクノロジーの学士号には、学生が必要とする数学や科学概念を習得できるように、カリキュラムにSTEM要件が組み込まれているのが特徴で、オーディオの芸術と科学の基礎コースを通じて音の科学を学んでいきます。音響学専攻は、生理学、神経生物学、および心理学を研究することにより、音の聞こえ方と知覚の仕方を分析したり、音響設計が安全で便利で魅力的な空間、環境、製品をどのように作り出すかを学びます。音楽テクノロジー専攻は、実験的なライブパフォーマンス、ビデオゲーム、音楽作曲、サウンドインスタレーション、その他の音楽活動のために、音楽技術をどのように設計、成形、使用、操作できるかという音の科学に焦点を当てています。科学、数学、音響技術、音響学の入門コースを受講した後、インタラクティブミュージックデザイン、電気音響構成、知覚と音色、プログラミングオーディオ、フィジカルデザインの5つの専門のいずれかを選択します。
テキサス大学オースティン校(The University of Texas at Austin)
コミュニケーションとリーダーシップ(Communication and Leadership)
1883年にテキサス州オースチンに創立された、州立の大規模総合大学。学部在籍者は4万人を超える、アメリカ最大の大学の1つです。ハーバード大学などに代表される名門私立大学群・アイビーリーグと肩を並べる、パブリックアイビー(公立大学の名門大学群)の1校としても知られ、全米でもトップレベルの教育・研究実績を誇っています。とくに大学院レベルの研究は、法律やビジネス、教育、工学など多くの分野で高い評価を受けています。キャンパス内には多くの学際的な図書館や、スポーツ施設も充実しており、最先端の研究を支える学習環境が整備されています。学部課程では、建築学、教養学、教育学、看護学、芸術など13のスクールとカレッジにまたがる、170以上の研究分野を網羅する幅広い学位プログラムが提供されています。会計学やラテンアメリカ研究、石油工学などは全米でもトップに位置しています。
同校で人気のある学部の1つとして注目に値するのは、コミュニケーション学部(Moody College of Communication)。広告と広報、コミュニケーションとリーダーシップ、コミュニケーションの科学と障害、コミュニケーション研究、ジャーナリズム、ラジオ・テレビ・映画研究といった専攻分野があります。「コミュニケーションとリーダーシップ」専攻はBS(Bachelor of Science)の学位を取得できるプログラムです。リーダーシップは同校の核となる価値であり、テキサス州や都市のリーダーを育成することが大学の使命の中心とされているため、重要な専攻分野といえます。リーダーになるには、学際的なアプローチ、コミュニケーションスキル、および倫理的実践を通じて生み出される戦略を構想する能力等が必要であるという理念に沿ってプログラムは構成されています。学問と体験学習の両方を取り入れたリーダーシップに関する4つの基本的なコースと、コミュニケーションスキルを結び付け、社会問題に対する学際的アプローチを探求するコースを組み合わせた学際的なカリキュラムとなっています。
本シリーズの次回は、「カナダ編」として、ユニークな学部・学科をもつカナダの大学を5校ご紹介します。お楽しみに!
※この記事でご紹介している内容は2020年1月10日現在の情報に基づいています。
※この記事は、旧GLCウェブサイトの「グローバル海外進学コラム」2020年1月10日に掲載されたものです。