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お国柄が出る? ユニークな学部・学科を持つ大学 ~オーストラリア編~


世界各国にある大学・学部は、キャンパスのある国や地域、都市によってそれぞれに特徴が異なり、日本の大学ではなかなか深く学べないユニークな内容の学問を提供していることもたくさんあります。海外留学を考える際は、大学ランキングのみにとらわれず、自分が本当に興味・関心のある分野を大学選びの観点の1つとして持つことは非常に大切。このシリーズでは、後悔しない留学・大学選びの手助けとなるよう、“国によって特徴的かつユニークな学部・学科をもつ大学”をご紹介しています。今回は「オーストラリア編」として、各地の環境や風土、産業、文化などに根付いた、ユニークな学部・学科をもつオーストラリアの大学を5校ご紹介します。

ユニークな学部・学科を持つ世界の大学 ~オーストラリア編~

オーストラリアの大学教育の特徴

豊かな自然に恵まれ比較的穏やかな気候、多くの移民が暮らす多国籍・多文化国家であること、治安が良く生活水準も高いことなどから、留学先として人気があるオーストラリア。教育水準も非常に高く、毎年、THE世界大学ランキングでTOP200に7~8校が常にランクインするほど、世界的にも高い評価を得ている学校が数多く揃っています。国内にある43の大学のうち、39校が国公立大学(国立1校・公立38校)で、教育の質や教育設備に関して厳しく管理されています。

オーストラリアの大学の学士課程は3年生制で、通常は3年間で学士号が取得可能(医学、建築学、工学、教育学などのコースは4~6年在籍することが必要)です。観光が主要産業の国家らしく観光・ホスピタリティ分野の学問に強いことでよく知られていますが、そのほかにも海洋学、環境学、アジア学、国際学、開発学など、特色豊かな魅力ある専攻科目が多く、それぞれの分野でも研究・教育の質には定評があります。
大学には一般教養課程のような授業がなく、1年目から専門課程に入ることが多いのが大きな特徴。社会に出た際に即戦力となる人材の育成が重視されているので、入学後はすぐに専攻に分かれ、3年間ずっと専門分野の知識や実践的なスキルの習得を中心に高度な課程で学びます。さらに即戦力重視のため、実務訓練の一貫として地元企業での研修や実習が盛んに行われており、自らが学んでいる分野でのインターンシッププログラムを提供している学校も多くあります。
また、オーストラリアにはTAFE(Technical and Further Education)という国立・州立のキャリアカレッジ(職業訓練専門学校)もあり、マーケティングやアート、ファッションなど多くのコースと多様なカリキュラムが用意されています。プロフェッショナルな技術から最新のキャリア領域まで、特定の分野において、より実践的なアプローチでスキル重視の学びが可能です。国内に100区以上あるTAFEでは、3年制大学に編入できる制度もあります。

日本の高校を卒業した後、オーストラリアの大学に進学を希望する場合は、教育制度の違いにより、一部の例外を除き直接入学はできません。日本の高校の卒業生がオーストラリアに大学留学する方法は、一般的に以下の2つのルートのいずれかを経由することが一般的です。

(1) 大学付属カレッジのファウンデーション・コース(Foundation Course)を修了してから大学に入学
⇒ファウンデーション・コースでおよそ1年間学び、専門課程の基礎を身につけた後、希望の学部の1年生に入学(大学卒業まで合計4年間)
(2) TAFE(キャリアカレッジ)のディプロマ(Diploma)コースを修了してから大学に編入
⇒TAFEで2年間程度学び、修了証書(ディプロマ:Diploma)を取得した後に、希望学部の大学2年生に編入(大学卒業まで合計4年間・最短で3年間程度のことも)

※日本の大学・短大を1年以上修了すると、オーストラリアの大学にそのまま入学することも可能です。(ただし、入学時に要求されるTOEFL®テストやIELTSのスコアをすでに取得していることが必要)
※(1)(2)のいずれも、英語力が不足している場合はまず大学付属などの語学学校で一定期間、英語コースを受講する必要があります。
※IB(国際バカロレア)などのプログラム修了者や一部学部では直接、大学への入学が可能となる場合もあります。

なお、オーストラリアに留学する場合の特徴の1つとして、学びながら、もしくは学んだ後に就労が可能であることが挙げられます。学生ビザの滞在でも2週間で40時間までの就労(アルバイト)が認められていますし、2年以上の大学留学で学位を取得して所定の条件を満たした場合は、国内に在留し、就労できるビザを申請することができる(2018年現在)ため、卒業後にオーストラリアで実務経験をつむことができるのも魅力と言えるでしょう。

ユニークな学部・学科をもつオーストラリアの大学 ~5校~

キャンパスのある国・地方の風土や環境、文化、その土地の産業などと結びついたり、影響を受けたりしている特徴的でユニークな学部・学科・専攻を持つオーストラリアの大学を5校ピックアップしました。

ジェームスクック大学(James Cook University:JCU)

海洋科学(Marine Science)

クイーンズランド州のタウンズビルとケアンズにメインキャンパスを持つジェームスクック大学は、1970年に設立された州内で2番目に古い州立大学。大学の名称はイギリスの探検家、ジェームス・クックに由来して名づけられました。メインキャンパス近郊には熱帯雨林・デインツリーや世界遺産のグレートバリアルーフなどがある特異な環境で、全部で6つあるキャンパスでは約2万人の学生が学んでいます。同大学では科学、芸術、医療、法律、言語学、観光学、ビジネス、エンジニアリング、ITコースなど170以上の学部課程が提供されていますが、世界的にもユニークなキャンパスの立地を活かして、熱帯研究や海洋生物学、自然保護学、環境をテーマとした観光学など、地域特性に基づいたプログラムが人気を集めており、世界的にも特に高い評価を受けています。
とくに注目したいのが、タウンズヒルキャンパスにある海洋科学(Marine Science)分野。インド洋、珊瑚海、タスマン海、アラフラ海、ティモール海など異なる海洋に囲まれているオーストラリアは、独自の海洋生態系が存在していることを背景に、世界の海洋学研究を牽引している国の1つですが、同大学の海洋科学研究はその中でもリーダー的な存在と言われています。グレートバリアリーフに近いことから、熱帯地域の海洋研究(サンゴ礁生物学など)に特に強みを持っています。キャンパス内のOur Aquarium Complex(海洋研究施設)のほか、グレートバリアリーフに浮かぶ島「オーフェウス島」にも研究施設を有しており、学生はキャンパス内での授業だけでなく実際にフェリーに乗って島を訪れ、実習と研究を行います。また、国の環境保全機関や、海外の海洋研究機関とも協同で研究プロジェクトを行っており、世界中トップクラスの海洋研究学者が講師として在籍。世界トップレベルの講師・研究者から直接抗講義を受けることができます。
海洋科学分野のBachelor of Marine Scienceの学士号を取得できるコースでは、大学が有する高度な研究施設で、人間が与える影響を管理し、ダイナミックな海洋環境を維持する方法を学びます。海底マッピングと魚評価ソナー、海洋センサーおよび波の上下でデータを収集するために使用されるさまざまな技術など。進化するテクノロジーを駆使したハイレベルなスキルを開発していきます。
さらに、海洋学系のコースとして、科学(Science)分野にも水産養殖学(Bachelor of Science in Aquaculture Science and Technology)専攻、海洋生物学(Bachelor of Science in Marine Biology)専攻があります。
水産養殖学専攻では、あらゆる種類の水環境での植物や動物の繁殖、飼育、収穫の科学的および実用的な応用を探求します。種の生物多様性と養殖方法、養殖システムの設計、栄養の基本を学びます。
海洋生物学専攻では、世界で最も多様で脆弱な海洋生態系の1つと言われるグレートバリアリーフ周辺の生物の生息地を調べることで、人間が海洋環境に及ぼす影響と、海洋と大気の相互作用を研究します。

タスマニア大学(University of Tasmania:UTAS)

海事工学(Maritime Engineering)

タスマニア大学は1890年創立の、オーストラリアで4番目に歴史のある公立大学。タスマニア州唯一の大学として、州内に3つのキャンパスを構えています。メインキャンパスはホバートとローンセストンで、約18,000人の学生が学んでいます。オーストラリア最南端に浮かぶタスマニア島という特殊な環境であること、州の中で1つしかない大学であることなどから、一般的な人文学、経営・経済、教育、法学、工学などの分野から、立地を生かした海や自然環境に関する研究やリサーチを行う学問分野まで、幅広いコースを提供しているのが特徴で、学士課程コースは100以上になります。農業科学や水産養殖学、地理学、環境科学、地球科学などには定評があります。また海洋学・南極研究も盛んで、とくに南極海洋学(Southern ocean research)の分野では国際的に高い評価を得ています。
さらにもう1つ、世界的に知られているのがローンセントキャンパスで開講されている海洋や船に関わる工学のコースで、同大学は海洋関連技術に興味がある人にとっては有名な大学です。工学部の海事工学の優等学士号を取得できるコース【Bachelor Degree with Honours (Maritime Engineering)】として、造船工学【Bachelor of Engineering(Naval Architecture)】、海洋工学【Bachelor of Engineering(Ocean Engineering)】、海洋およびオフショア工学【Bachelor of Engineering(Marine and Offshore Engineering)】という、3つの海洋専門分野の工学を追求する優等学位プログラムが提供されています。
造船工学コースでは、海運、高速、オフショア、防衛、水中、レクリエーション業界で船舶を設計および建造するための専門知識と技術スキルを磨きます。
海洋工学コースでは、海洋環境での持続可能な開発のために、海洋構造物や、海底および沿岸施設を設計する専門知識と技術スキルを学びます。オフショアの石油およびガス工学、沿岸および海底工学、さらには関連産業の高度な学習を対象としています。
海洋およびオフショア工学コースでは、海運、海洋およびオフショアの石油およびガス産業に関連する機械システムおよび機械電気システムの設計、展開、試運転、保守および管理の専門知識と技術スキルを学びます。

西シドニー大学(Western Sydney University:WSU)

翻訳・通訳(Interpreting & Translation)

ニューサウスウェールズ州シドニーの西部に位置し、1989年に設立された公立大学である西シドニー大学。比較的新しい大学ながら急成長を遂げており、シドニーとその郊外に10のキャンパスを構え、学生総数は45,000人を超える大規模な総合大学となっています。パラマタシティ、リバプールシティの新しいキャンパスはハイテクキャンパスとして有名で、充実した設備と洗練された学習環境を備えています。デジタル化が進められており、テキストや授業のマテリアルなどのインターネット上での提供など、先進的な取り組みも進められています。同時に、もともと地元に密着した各キャンパスが合併して成り立った歴史を持っているため、地域に貢献している大学としても知られています。
提供されているコースは、学部・大学院を合わせると100以上と、非常に幅広い分野を扱っています。大きく分けるとビジネス、看護・助産、社会学、心理学、芸術、健康・スポーツ科学、工学、法学、教育、など17の学部(コース)があり、それぞれに多様なコースが展開されています。中でも注目は、TESOL(英語教授法)および通訳&翻訳コース。オーストラリアには、NAATI(National Accreditation Authority for Translators and Interpreters)という通訳・翻訳の資格があり、公共サービスやビジネス、政府機関など幅広く活用されています。実質上、国家資格として認定されている重要な資格であり、オーストラリアで通訳、翻訳家を目指す場合は、このNAATIの資格を取ることがほぼ必須となるのですが、同大学はNAATI認可の通訳翻訳コースを、学士課程で開講しているオーストラリアで唯一の大学となっています。
通訳&翻訳の学士号【Bachelor of Arts (Interpreting and Translation)】を取得できるコースは、プロの通訳者および翻訳者として働くためのトレーニングと理論的背景を提供するように設計されています。3年間の学部課程でNAATIの認定資格が取得できるため、卒業と同時に通訳者または翻訳者として専門職のキャリアをスタートさせることが可能です。提供されている言語は、アラビア語、中国語、日本語、スペイン語です。

クイーンズランド大学(The University of Queensland)

国際ホテル&観光学(International Hotel and Tourism Management)

クイーンズランド大学は、1909年にクイーンズランド州の州都ブリスベンに創立された、州内最古の歴史を持つ伝統と格式あふれる公立大学です。オーストラリア国内でもトップクラスの生徒が全土から集まることで知られ、「Group of Eight」と呼ばれる優れた教育法と高レベルの研究機関で名高いオーストラリアの8大名門大学連合の1校に数えられます。キャンパスはセントルシア、イプスウィッチ、ガトンの3つで、学部生は約34,000人、学生総数は54,000人近くにのぼります。メインキャンパスとなるセントルシアキャンパスは、広大で緑豊かな、非常に美しいキャンパスとしても知られています。
6つの学部(人文学部、商経済法学部、工学/建築/情報工学学部、医学部、理学部[天然資源/農学/獣医学部])、健康/行動科学部)、7つの研究機関(分子生命科学研究所、生物工学/ナノテクノロジー研究所、持続可能な鉱物資源研究所、脳科学研究所、がん/免疫学/代謝医療研究所、社会科学研究所、気候変動研究所、農業食イノベーション研究所)を有し、オーストラリアを代表する研究重視の総合大学としても有名です。
学部課程でもビジネス、工学、サイエンス、教育学、健康医療、農学、環境学、建築学、社会学など数百にも及ぶ多様な専攻が提供されており、幅広い分野からプログラムを選ぶことができます。中でも注目は、ホテル&観光マネジメントの学士号を取得できる(Bachelor of International Hotel and Tourism Management)コース。同コースは、オーストラリア唯一のUNWTO(国連世界観光機関)認可コースとなっています。州都ブリスベンという観光業が盛んな土地柄もあいまって人気のあるコースです。同大学の観光学の特徴としては、ビジネス学部の中にツーリズム(観光学)に関するビジネス等の専攻を含んでいること。ビジネスという性質上、その後のキャリアに結びつけ易くするために、教育の場を提供するばかりではなく、就職に関するアドバイスや企業の訪問なども積極的に行っています。
コースはイベントマネジメント(Event Management)、ツーリズムマネジメント(Tourism Management)、ホスピタリティマネジメント(Hospitality Management)の3つの専攻に分かれており、1つまたは2つを選択して学びます。このプログラムを通じて、国内外の観光産業で成功するための管理スキル、ビジネスの洞察力、専門能力を身につけ、優れた観光体験を計画、編成、提供することができるようになることを目指します。
イベントマネジメントは、社会におけるイベントの性質・役割やフェスティバルの長い歴史と重要性について学ぶとともに、ビジネスイベント、芸術イベント、文化イベント、スポーツイベントの運営を学びます。マーケティング、スポンサーシップ、資金調達のための管理スキルと起業スキルを養います。
ホスピタリティマネジメントは、国際的なホテル運営管理、ホスピタリティ管理におけるテクノロジーの役割、大規模なサービス管理、および中小企業の運営について学びます。ホスピタリティ、起業家精神、飲食管理、カジノおよびゲーム管理の価値を理解し、スキルを習得できます。
ツーリズムマネジメントは、観光事業、目的地マーケティング、および政策関連の問題を調べるとともに、持続可能性、エコツーリズム、訪問者の行動、および観光の物理的、社会的、経済的効果についても学びます。ニッチな観光市場の開発など、業界の現在および将来の傾向と問題も検証しつつ、実際の旅行や観光事業のケーススタディを使用して、知識を応用し、深めることができます。

フリンダース大学(Flinders University)

看護学(Nursing)

南オーストラリア州最大の都市アデレードの郊外に、原生林や庭園を含む広大なメインキャンパスを構えるフリンダース大学。1966年に設立された公立大学で、大学の名称は19世紀初期に南オーストラリアの海岸沿いを調査したイギリスの海洋探険家マシュー・フリンダースから名付けられました。きめ細かい、革新的な研究・教育を提供する総合研究大学として世界的にも知られ、25,000人ほどの学生が学んでいます。
同大学はビジネス・政治・法律、教育・心理学・ソーシャルワーク、人文学・芸術・社会科学、医学・公衆衛生学、看護・健康科学、科学・工学の6つのカレッジで構成されており、18の学部があります。看護学や健康科学、医学、公衆衛生学、心理学、教育学、法学、ITなどで高い評価を受けています。相互分野研究に重点が置かれているとともに、各分野において専門分野が細分化されている傾向があり、他大学にはないコースがみられるのも特徴の1つといえます。
中でもとくに人気があるのが、看護学(Nursing)。医療福祉の先進国の1つであるオーストラリアでは、もともと大学における看護学のコースは一般的かつ人気のある分野ですが、同大学の看護学部はQS世界大学ランキングでTOP100に入るなど、この分野で非常に知名度が高くなっています。オーストラリアの看護協会が認定している看護学部(看護学位)の中でも、同学部は有数のカリキュラムを提供しています。また、学部施設の充実度も国内のトップクラスを誇り、フリンダースメディカルセンターとの連携が特徴です。VRを組み込んだ臨床スキルラボ、およびキャンパス内のシミュレーションスイートを使い、最先端の設備で学んでいきます。
通常、オーストラリアで正規の看護師になるためには、3年間のコースを修了することが必要になりますが、同学部では1から看護師を目指すための3年間のコースのほか、自国で看護師として働いていたなど、看護のバックグラウンドを持つ方のために2年への編入コースも用意されています。
最終的な看護師資格取得には高い英語力が必要とされるため、無料の「医療英語学習サポート(学部生のみ)」が提供されているのは特筆すべきポイント。英語が話せる看護学位(看護師資格認定対応)を取得できる、留学生にも人気のコースです。

本シリーズの次回は、「ニュージーランド編」として、ユニークな学部・学科をもつニュージーランドの大学を5校ご紹介します。お楽しみに!

※この記事でご紹介している内容は2020年1月24日現在の情報に基づいています。

※この記事は、旧GLCウェブサイトの「グローバル海外進学コラム」2020年1月24日に掲載されたものです。

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